うつ病を自分で治す方法

 「うつ病を自分で治すことは可能ですか?」という質問をよく受けます。「自分がうつ病である」と打ち明けることは、とても勇気がいることで「できれば自分でうつ病を治したい」と考える気持ちは、鬱の経験者であれば、理解ができるのではないでしょうか?
 
 自助努力でうつ病からの回復を早められるかは、うつ病の進行ステージがどの状態かが大きく影響します。うつ病の進行ステージは、大きく分けて、症状が表れ重度化していく「急性期・重症期」と、改善に向けて動き出す「回復期」に分かれます。

ポイント:うつ病からの回復を目指して、自分自身で行動が増やせるのは、「回復期」からになります。うつ病の進行が「急性期や重要期」にある場合は、医師やカウンセラーなどの専門家に相談することをお薦めします。


うつ病の急性期・重症期の場合

 うつの症状は「思考」と「行動」が負のスパイラルに陥ることによって生じます。そもそも「相談ができない」「一人で背負いこんでしまう」という行動特性が、負のスパイラルを生む要因でもあります。うつ病の進行期・重症期には、この負のスパイラルを一人で抜け出すのは、大変むずかしく、専門家に相談するなどのサポートを受けることが必要です。

うつ病の回復期 の場合

 うつ病の回復期は、最も辛い時期から症状が和らぐ時期です。うつ病の回復期にある場合は、自分の「行動」と「思考」を少しづつ変えていくことで、うつ病を改善させることが可能です。
 ただし、症状がやわらぐと、つい「早く復帰しなくては」という気持ちが先に立って、無理をしがちです。「今の状態なら何ができるか」をご家族やカウンセラーに確認したうえで、行動目標を定めていくことが大切です。うつ病の回復期は、調子のよい日があったり、悪い日があったりと揺れ戻しながら、改善していくのが一般的です。あせらず、ゆっくり、回復に努めましょう。

うつ病を正しく理解する

 うつ病の研究結果から、うつ病の患者は健康な方と比較して、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの不足がしていることが分かっています。脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンが不足すると、下表のような症状が生じます。

■神経伝達物質が不足する影響

セロトニンの不足不安感・緊張感・焦燥感が強くなる
ドーパミンの不足楽しみの消失(活動量の低下、食欲や性欲の低下)
ノルアドレナリンの不足意欲の低下、興味の低下を生む

 特にこれら神経伝達物質の中で、鬱の症状に強く影響すると言われているのがセロトニンです。セロトニンが不足すると「怒りっぽくなったり」、「イライラが生じやすくなる」だけでなく、「直ぐにくよくよしたり」「落ち込んだりする」など感情が不安定になりやすくなります。

 この点に着目した鬱からの回復方法を「食事療法」「行動療法」「認知療法」の3つに分けて紹介します。改善のための療法と言っても決して難しいものではありません。うつ病の回復期にある方は、出来そうと思ったものを気軽に試してみてください。

自己回復力を高める① 食事療法

 脳内の神経伝達物質と食べ物は、大きく関連しています。このため、うつ病の回復期に、食事の内容を変えてみるのは、うつの症状の改善に有効な取り組みの一つです。食事療法については、積極的に採取したい食べ物と、過剰に採取することを控えたい食べ物があります。

ビタミンB群や葉酸緑黄色野菜・納豆・レバー・ウナギ・鶏・豚肉・魚介類、バナナ
鉄分やミネラル赤身肉やレバー、魚介類
アミノ酸乳製品、大豆、ナッツ類、バナナ
過剰な採取を制限したいもの白米、うどん、ラーメン、パスタ、パン類

うつの回復に良い食べ物

 鬱の症状の改善に、積極的に採取したい栄養素としては、緑黄色野菜や納豆・レバーなどに多く含まれるビタミンB群です。特に緑黄色野菜に含まれる葉酸は、鬱の時に不足するドーパミン、ノルアドレナリンを作る材料となります。
 また、赤身肉やレバー、魚介類に含まれる鉄分やミネラル。乳製品、大豆、ナッツ類から摂取できるトリプトファンやメチオニンといったアミノ酸。魚類に含まれるDHAやEPAなどの脂肪酸は、脳がセロトニンを作る時の材料となります。
 ただし、これらの食材も過剰に食べ過ぎると、カロリーオーバーや栄養分がかたよったりするので、バランスよく適切な量を摂取することが大切です。

糖質制限

 一方、食べる量をコントロールしたいのは、白米やうどん、ラーメン、パスタ、パン類などから精製される糖質です。精製糖質が体の中で多く作られると、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が作られ難くなり、うつ病の症状が強く出やすくなります。
 糖質は、体を動かすエネルギー源として必要な栄養素でもあります。このためうつ病の方には、葉物野菜や魚介、肉類などのおかず類を先に食べて、ある程度お腹を満たしたうえで、少量の白米や麺類を食べることをお薦めしています。

精製糖質がうつの症状を生むメカニズム
 白米や麺類は食べると血糖値が急上昇し、糖の処理をするために多量のインスリンが分泌されます。すると今度は血糖値が大きく下がり、その反動で低血糖に至ることがあります。

 本来、糖質は体にとって必要なエネルギー源です。そのため人間の体は低血糖状態を回避しようとして、血糖値の回復につながるグルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。

 これらのホルモンをつくるには、たんぱく質やビタミンB群に加え、その働きを支える亜鉛やマグネシウムなどのミネラルが使われます。また、コルチゾールの合成にはそのほかに脂肪酸や食事由来のコレステロールが必要とされます。

 精製糖質の過剰摂取は体に負担を与え、せっかくの栄養素を無駄に浪費します。その代償はきわめて大きく、ビタミンB群やミネラルが不足すると、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質もつくりにくくなり、うつ病の症状が強く出やすくなります。

自己回復力を高める② 行動療法

 鬱の回復過程では、セロトニンの分泌を増やすことが重要です。セロトニンは、「幸せホルモン」とも呼ばれ、食べ物だけでなく、チョットした行動の違いでも分泌を増やすこことができます。簡単にセロトニンを増やす行動療法としては「太陽を浴びること」と「サウナによる温冷交換浴」をお薦めします。

太陽の光を浴びる

 セロトニン分泌は、太陽の光を浴びることで活性化することが知られています。特に朝の光を浴びることが重要で、太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、半覚醒の状態→覚醒状態にシフトさることができます(副交感神経から交感神経が入れ替わる)。
 朝日を浴び、交感神経のスイッチが上手に入ると、脳や自律神経、筋肉が自然に覚醒し、スムーズな1日がスタートします。朝、目がさめたら、部屋のカーテンを開けて対応の光を部屋いっぱいに取り込んでみましょう。また、天気のよい日は30分程度、散歩に出かけることも、セロトニンを増やすことに有効です。

サウナで整える

 うつ病の回復過程にお薦めしたいのがサウナでの温冷交代浴です。温冷交代浴とは、「サウナ」→「水風呂」→「休憩・外気浴」を3回繰り返すサウナの入り方です。温冷交代浴を繰り返すと、頭がスッキリし、身体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になることがあります。この状態をサウナ愛好家は「ととのう」と呼びますが、この「ととのい」が生じる過程で脳内にセロトニンが分泌されることが確認されています。
 また、サウナでの温冷交代浴には、交感神経と副交感神経をスイッチさせ、自立神経をととのえる効果や、β-エンドルフィンが分泌されることによるリラックス効果も期待できます。

【番外】その他 セロトニンを増やす行動:

  • ナッツ類やバナナチップスをひとかけら食べる
  • 昼休み等に積極的に外出して歩く(30分程度)
  • パートナーや家族とのスキンシップを取る
  • 関係を大事にしたい人と一緒に食事・スポーツをする
  • 小さな目標をいくつも達成する
    (1日単位、行動単位で出来るだけ小さな目標を設定する)
  • 人を褒める、感謝の気持ちを伝える。 仕事上で出会う人たちに親切にする

 その他、セロトニンの分泌を増やす行動としては、上記のようなものがあります。全てを実践する必要はなく、簡単にできそうで自分が「幸せ」と感じられる行動を増やしていってください。

自己回復力を高める③ 認知療法

 うつ病の回復期に取り組んでおきたいのは、認知療法です。うつ病は「否定的なものの見方」によって引き起こされた悪循環によって、その症状を強くします。回復期には、この悪循環を再び、引き起こさないように認知のバランスを整えておくことが必要です。
 認知のバランスを整えるには、①自分の思考の癖を知ること、②思考の癖を補正するための思考トレーニング(コラム法)を実践することをお薦めします。

思考の癖を知る

 「思考の癖」とは、物事を判断するときの認知の偏りです。思考の癖は、誰にでもありますが、うつの時はその癖が強く出やすくなります。うつ病を克服するには、自分にはどんな癖があるのかを知っておくことが大切です。
 「思考の癖」は12のパターンがあります。この12のパターン表を手元に置いておくことで、自分の思考の歪みに気づくきっかけになります。また、認知行動療法において重要なセルフモニタリングにも役に立ちます。

コラム法を試す

 コラム法とは、認知行動療法で使われる思考のトレーニングツールです。コラム法を使えば、認知の歪みのバランスを整えていくことができます。「思考の癖」や「認知の歪み」は、誰にでもあるのですが、この癖や歪みが強く出過ぎると鬱の症状から抜け出し難くなります。
 コラム法は、思考のバランスを整えるためのトレーニングツールですが、思考のバランスを整えておくことにより、うつ病の再発を防止する効果も期待できます。

最後に

 「鬱から抜け出したい」「うつ病を早く治したい」という欲求は、とても大切です。しかし、過度の焦りは禁物です。うつは揺れ戻しがある病気です。調子のよい日があったり、悪い日があったりと揺れ戻しを返しながら、徐々に改善していく病気です。このため回復期にあっても過度の焦りや無理は禁物で、自分のできることに合わせて、回復に努めることが大切です。

 今回は、自己回復力を高めることをテーマに「一人でできるうつ病からの回復方法」を紹介しました。しかし、鬱からの回復の道のりは、長く平坦でありません。実際には、回復の状況や今できることを考え、並走しくれるトレーナーがいた方が、鬱の回復がより確かなものになります。
 回復期のトレーニングについて、サポートをご希望される方は、お気軽にご相談ください。